【読書メモ】サピエンス全史

今回の読書メモはユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書『サピエンス全史』についてです。かなり有名な本なので、名前を聞いたことのある人や読んだことのある人も多いかと思います。ちょっとネタバレになるかもしれないので注意です。

基本情報

サピエンス全史(上) 文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下) 文明の構造と人類の幸福

2011年にヘブライ語版が、2014年に英語版が、その後日本語版が出版されました。英語版では1冊ですが、日本語版は上・下の2冊に分かれています。(私が読んだのは日本語版です。)著者のユヴァル・ノア・ハラリ氏はイスラエル人の歴史学者で、現在はヘブライ大学で教えているそうです。

内容

一言でいうと、スケールをどでかくしてさらに読みやすい語り口にした世界史の教科書だと思います。なので、予備知識が一切なくても十分に読めます。また個人的に翻訳書はその翻訳によって読みやすさが全然違ってくると思っているのですが、この本の日本語訳はとても読みやすく、訳者さんも素晴らしいと思いました。

普通の世界史の教科書では人間目線で語られているのに対し、こちらは人間でない第三者目線の語り口のようになっているところが多いです。その中で、私たちが普段の生活では気づかない視点を提供してくれます。

内容の大きな構成としては、

・認知革命

・農業革命

・科学革命

という3つの大きな変化が軸になっていて、私たち人間がどのように特殊な文明を築いていったかが基本的に時系列で説明されています。

内容がかなり広範にわたるので説明はしませんが、先ほども言ったように読みやすい文章かつ全ての人に共通する「人間の歴史」というテーマを扱っているので、とにかく一度読んでみることをおすすめします。

ざっと感想

やはり多くの人に読まれているベストセラーなだけあって、読みものとして単純に面白く、どんどん読み進めることができました。

最初の方は宇宙や地球というスケールで話が展開されるのであまりピンとこないかもしれないですが、(わたしは最初の3行で「宇宙ってどこまであるんだ…?」と考えてしまってなかなか進みませんでした)、例えば”会社”や”お金”など、身近にある概念がどのように生まれどのようにその存在が維持されているのかが丁寧に説明されているのですが、例えば「会社や法律はすべて人間の想像上にある虚構である」といったようにその内容は普段生活していて感じるようなものではないので、驚くことも多いです。

以下では読んでいてわたしが気になった点や議論ができそうな点を取り上げます。

環境を守るのは誰のため?

第4章「史上最も危険な種」では、人間が自然破壊をしはじめたのは近代に入ってからのことではない、という内容がありましたが、意外だと思う人も多いのではないでしょうか。

文明以前の昔の人々は完全に自然と調和して生活していたのではなく、無数の種を絶滅に追いやっていたそうです。確かに自然破壊の度合いとその速さでいったら近代がぶっちぎりなのかもしれませんが、人間は狩猟採集や農耕を行うことで生態系に類を見ないほどの影響を与えていたんですね。

著者はこれに関して、この事実が周知されていれば「現在残っている種を保護しよう」という動機が強まるのではないか、と主張していました。また別の章でも、畜産の工業化にともなう家畜動物への配慮のない飼育方法(身近な例でいうと鶏のバタリーケージ飼い豚の妊娠ストール飼いなど)の現状について詳しく説明していました。このことからも分かるように彼は動物福祉への意識が高く、彼自身も動物性の食品を一切摂らないヴィーガンであると述べています。

著者のように、「生態系の保護」を純粋に動物(ひょっとしたら植物)福祉的な意味合いで主張している場合もあります。しかしながら、広く叫ばれている「生態系の保護」はやはり人間にとっての利益ベースで考えられている部分も大きいのではないかと思います。特に、生態系を守る一つの目的である「遺伝資源の保護」は誰にとってのどのような「資源」なのかと考えると、それは人間にとっての「病気を治すための薬」であったり人間の「生命維持のための食料」というふうに思えます。(とはいえ、もしかしたらわたしが無意識に人間中心主義的な考え方をしてしまいその他の「生態系の保護」をサポートする根拠を見落としてしまっている可能性はありそうです。)

地球温暖化に挙げられるような環境問題も似ていると思います。地球全体の気温が上昇して困るのは、もちろんホッキョクグマだったりサンゴだったり、人間だけではないです。しかし、なぜ世界中がこんなにも知恵を絞って国を挙げてこの問題に取り組んでいるかというと、人間が一番困るからです。温暖化によって、異常気象やそれに伴う災害が増え、熱帯地域で農業はしづらくなり貧困が進み、健康被害も各地で出るでしょう。そのような事態を避けるために様々な手をつくすのは自らの繁殖を最大の目的とする、生物としては当たり前だと思います。ですが、人間がいくら苦しい思いをしようと一方でそこから繁栄する生物もおそらくいて地球はもちろん回り続けるわけで。地球・宇宙スケールで見ると物事に「正しい」も「間違い」もないのだな、と感じました。

とはいえわたしは人間なので、やっぱり自分が大事です(笑)。だから生態系も温暖化の問題も真剣に取り組むべき「課題」だと考えています。ただ、そのような主張をするときは、「私たち人間は周りの自然に配慮している、地球に優しい(どや)」ではなく、「私たち人間は周りの自然に生かされている存在である」という謙虚な姿勢でいなくてはいけないなと思いました

資本主義と幸福

現代の私たちの生活に深く根付いていて、そして(今のところは)取り去ることのできない仕組みとして「農耕社会」と「資本主義社会」が取り上げられていました。

特に農耕社会よりも狩猟採集社会の方が労働時間が短く悠々とした暮らしをしていた、というのは人類史ではよく耳にするのですが、まあ今更狩猟採集しろと言われても、この人口規模では完全には無理なわけです。「海の幸」や「山の幸」とも言うように、狩猟採集の文化が現代にも比較的残っている日本でさえ、魚とキノコだけ採って1億2千万人養えるかっていう話です。そうなるとやっぱり今のところは農業でしか食べていく術はないんですよね。

そして資本主義。現代で当たり前に「良い」とされていることってそのほとんどが資本主義とそれを支える消費主義の価値観なんじゃないかなと思います(実際、著者は資本主義と消費主義の価値体系は一つの「宗教」といえると述べています)。昇進してお金を稼ぐのがいいとか、消費が増えてモノが売れて景気が良くなるのがいいとか、経済は成長し続けるべきとか。もっと身近なところで言えば、どこどこに就職できたらすごいとか、ビジネス起こしたらすごいとか、投資で儲けてたらすごいとか。

この価値観が良いか悪いかは別として、資本主義とは実に良く出来たシステムだなと思います。新しいモノやサービスを生み出すとお金になって、それが前よりも良い新しいモノやサービスを生み出す動機になる。それに伴って技術もどんどん高度になっていく。インフラが整備されることで衛生環境は良くなって、特に高いお金を払う人のために医療技術も発達し、貿易を円滑に行うために平和が実現している。現代では、あらゆる「社会が良くなること」に資本主義のインセンティブが働いているのではないかと思います。

一方で資本主義が歪みを生み出しているのも良く言われることです。先ほどにも挙げたように、この本で動物福祉の問題提起がなされていたのは、資本主義による産業の発達の過程を説明した第17章でした。自分の関心のあることでいうと、小売店や飲食店で発生するフードロスとか、過労による健康被害とかでしょうか。東京の満員電車も、大げさかもしれないですが、ある意味資本主義が人間としての尊厳をおびやかしている構図になるんじゃないのかなと思います。慣れてしまっているのが怖いんですけどね。

そして、この本で一番面白いと思った章が、第19章「文明は人間を幸福にしたのか」です。国民の「幸福度」が世界トップレベルに高いと言われているデンマークに留学することもあって、この章のタイトルには興味を持ちました。

その中で特に納得したのは、「幸福は、客観的な条件(富や健康など)主観的な期待との相関関係によって決まる」という記述でした。要するに、「自分が持っているもの」と「これから欲しいもの」との差ってことでしょうか。

この考え方でいくと、現代であろうと、衛生状態の悪い中世であろうと、野生動物から逃げ続ける石器時代であろうと、幸せの絶対値の差はそれほどない、ということが分かります。

資本主義・消費主義の今の世の中にいると、広告やメディアの影響もあり、欲しいものばかり増えてしまいがちになります。モノに限らずとも、インターネットで世界と繋がれるようになってしまった今、人は自分の能力や容姿などの要素も以前より大きな世界の中で比較しなければ気が済まなくなっています。技術が発展し生活の質が向上しているのに、手に入らないものを追い続けているから、ずっと幸せになれない。そういった構図が資本主義社会には常に存在し続けているのだと思います。

現代の資本主義的価値観が「宗教」だと言われると、特に無宗教といわれている私たち日本人にとっては、なんだかハッとさせられる気持ちになると思いますし、自分の幸せを問い直すきっかけにもなるんじゃないでしょうか。確かに人間が今できる最善の選択は資本主義かもしれないけれど、自分がそこにどう収まっているのかを俯瞰して捉えてみて、何か問題がありそうなら、自分なりに工夫して生きていくことが大事なのかもしれないです。

おわりに

今回の記事で取り上げた、「自然との関わり方」「資本主義・消費主義との関わり方」といったような話題は、最近注目されつつあるパーマカルチャーの考え方にもつながってくる気がします。パーマカルチャーについては関連書を今後読書メモ記事にする予定です。

また、わたしが触れているのは2冊の本のごく一部であり、詳細な説明は省きまくっているので、読んでない人はとりあえず読んでみることをお勧めします。

ちなみに、『サピエンス全史(Sapiens)』には続編の 『Homo Deus』という著書があります。前者が人類の今までの歴史をまとめたものであるのに対し、後者ではこれから起こる人類の未来についての予測が述べられているそうです。日本語訳はまだ出ていないので、留学中に暇があったら原著を読んでみようかなーと考えています。

食と農・海外留学・その他趣味についていろいろ書きます。東大農学部でお勉強する毎日です。現在はコペンハーゲン大学に交換留学中。 Twitter:@o_o_ho_o_o